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TV 電脳コイル OP「プリズム」/池田綾子 with 小川紗良

TV 電脳コイル OP「プリズム」/池田綾子 with 小川紗良

TV 電脳コイル OP「プリズム」/池田綾子 with 小川紗良

義経ホエール1

「ここで皆も知っている源義経の登場だ。源氏が平治の乱で平氏に負けて、鞍馬寺でお坊さんの修行をさせられていたんだ。弁慶に出会って父の敵打ちをするために寺を飛びだして……」

 あああ、欠伸が出る。歴史は好きだけど授業はむしろ眠いくらいだ。学校の授業よりはこの塾の内容は深いけど。司馬遼太郎の義経記を読んでるから、知らないことはないし。
 普段、源平モノに限らず塾の先生の口から自分の知らない歴史事実は出てきたことはないと、油断していると。
「屋島の戦でクジラが、義経を救ったって伝説があるんだ」

(え、クジラ? )
と、僕は思わず縁の厚い黒眼鏡の吉崎先生の方を見る。
 どういうことだ。天才的な軍略家で平家を単独で滅したヒーロー。義経には多くの伝説がある。でも、クジラと義経の絡んだ伝説は知らない。

「平家が基地にした屋島に暴風雨のなか海をわたって奇襲をかけた義経の部隊はたったの百五十騎。対する平家は三千騎もいた」
「義経の部下は全員サイヤ人やってんよ」
 お調子ものの女子ツルベエが陽気な能登弁で言った。
「またはルフィの仲間か?」
 塾でリーダ格の中西がかぶせるように冗談をいって、みんながクスクス笑っている。

「平家は嵐の夜に奇襲してくるなんて想像もしていなかったんだよ」
 先生は中西たちの冗談のおかげで、前に進めない。
「義経ヤバすぎや」
またツルベイがふざける。
「こら、発言があれば手をあげろ」
 先生の声がイライラしてきたので教室がシーンとなる。

 何となく隣を見ると峰光が精気のカケラもない顔でオデコを机にくっついる。義経どころじゃないのはその青ざめた顔を見ればわかる。
「朝飯食っとらんがん」
「うん、ゲストから問い合わせが多すぎて時間なかった」
 顔も名前も美少年っぽいけど、峰光は女子だ。なんと半年前までマレーシアのキャメロンハイランドという高原に住んでいた帰国子女。 顔はちょっと浅黒くて、髪はショート。睫毛が長くて黒目が大きい。

「昼まで我慢できんがんか」
「うん、大丈夫」
「俺の弁当も半分やるわいね」
「い、いいよ」
 峰光が気丈に微笑む。無理矢理使った能登弁が可愛い。
「母さんが作りすぎたげん、食ってまん」
「自分で作ったお弁当あるし」
 峰光は遠慮する。

<キンコーンカーンコーン>
 チャイムの音がなり響き、教壇を見ると先生は後片付けを始めている。

 義経とクジラの組み合わせはなんだったんだろうと、思いつつぼんやり黒板を見ていた。我にかえって、隣を見ると峰光がもう弁当をむしゃむしゃと頬張っている。僕の視線に気づいて、彼女は照れ笑いした。
「もう一秒も待てなくて、あははは」
「今日はハンバーグなんやね」
「冷凍ものだけど」
 午後にも授業がある子供は、塾でご飯を食べる。僕も母さんが用意してくれた弁当をリュックから取り出した。おかずにはうちの定番の卵焼きとソーセージとブロッコリー。
 大好物の卵焼きを食べると中から明太子の味がじゅっとしみ出てきた。おにぎりは北陸名産の白いトロロ昆布に包まれたやつ。頬張ると至福の瞬間がやってきた。しかし、義経とクジラは聞いたことがない。

 おにぎりで口をモゴモゴさせながら物思いに耽っていると
「どったの良太、そんな真面目な顔して」
 いつのまにか前にツルベイが立っていた。
「さっきのサイヤ人まあまあ受けとったな」
 僕は授業でうけることに命をかけてるツルベイを誉めてやった。

 彼女は近所に住む幼馴染みでお笑い大好き女子だ。本名は玲なのに「ツルベイ」と尊敬するベテラン芸人の名前を自分からあだ名にしている。目が細くてやや四角い顔しているけど、和風の癒し系フェイス。親が小さい会社を経営している。

「サイヤ人言うときの間が微妙やったかも」
 彼女は雛壇芸人みたいにに(ガヤ)に真剣だ。性格はサバサバしているくせに包容力があって、結構出るとこは出てるので、意外に男子の隠れファンは多い。勉強も一番でクラス委員だ。

「マって何」と峰光が真顔で質問した。
「みっちゃんにはわからんかあ」
「タイミングやわ」
 僕が助け船だす。
「そうか、タイミングねえ、なるほどお」
「ところでみっちゃん、今日も宿にお客さんくるがん」
 ツルベイが質問する。
「うん、今日から中国人の若い人がチェックインするよ」
「じゃあ三人で迎えにいかんかまん」
「え、悪いよ」
「お客さんに初めて会う時は一人で会わん方がいいって。変態かもしれんから」
 ツルベイは熱心にすすめる。
「そうやて、塾終わったら皆で行かんかまん」
 僕もツルベイを加勢した。峰光が本当は僕らが行くことを望んでいることは知っているから。男のお客さん、しかも若いお客さんに最初から峰光一人で会わせるのは、僕も嫌だった。

 四時で塾が終わって僕らは地元の羽咋駅に自転車で移動した。九月になって夕方の空気が少し冷たい感じがする。北陸の短い秋がじわりと夕暮れにもぐりこんできてる。

 今年の一学期の途中に彼女がマレーシアから転校してきたとき、最初にチヤホヤしたのはもちろん女子たちだった。峰光は死んだ中国系マレーシア人の父親と能登っ子の母親から生まれたハーフ。英語、中国語、日本語が話せるトリリンガールだった。

 最初、女子たちは熱烈歓迎で彼女を放課後近所の公園に連れていったり、家に呼んだり、千里浜や気多大社といった地元の有名な観光地に案内したりしていた。わざわざ、チャリで市に一つしかないファーストフードにも行ったらしい。でも峰光はとても忙しい。実はシングルマザーの母親を助けるために彼女はその語学力を活かしてある商売をしている。それも今流行りの民泊というものだ。
 民泊というのは一般の家を使って見知らぬ他人を宿泊させる宿泊業で、お客からの問い合わせが色々ある。それに忙しすぎて、放課後の付き合いが悪いので、大部分の女子は峰光にチヤホヤするのをやめた。でもツルベイだけは相変わらず彼女とは仲がいい。ツルベイのお父さんは仕事でしょっちゅう東南アジアにいっている。ツルベイも何回も海外旅行していて、異国への関心が強いから峰光が気に入ってるのかもしれない。

「みっちゃんの民泊手伝だってあげんかまん」
 そうツルベイが僕に言ってきたのは、峰光が転校してきてから三ヶ月くらい経ったころだった。
「何で僕が」
「男もおった方がいいがいね。それに良太バスケ部やめて暇やろ」
「忙しいて、色々」
「どうせ、失業した”火縄銃打ち”みたいに暇やろう」
 無謀なボケがやってくる。
「戦国時代かよ」
「うーん、いまいちなツッコミ」
「うぜえ。それより手伝うって何やるがん」
「掃除、洗濯、ゴミ捨て。あとゲストの質問に答えたり、部屋の値段調整したりとかや」
「何やそのエアビー何とかって」
「民泊で泊まりたいゲストと民泊運営するホストを繋ぐサイトのことや。本当の名前はエアービーエヌビーって言うげんて」
「なんか、色々、面倒そうやなあ」
「どうせ暇やろ。家におっても司馬遼太郎読むだけやし。爺くさい」
 確かにその通りなのである。
「ますます俺、お前の部下っていわれるわ」
「良太はあたしの弟みたいなもんやしなあ」
 幼児の頃から近所の女ボスだったツルベイに、僕はいじめっ子から守ってもらっていた。喘息持ちで運動が苦手だったから。
「誕生日、半年しか差ないやろ」
「ごちゃごちゃ言わんで、言うこときいたほうがいいがいね」
 ツルベイが酷薄な仏像のように微笑むと、僕は背中に悪寒を覚えながら、仕方なく彼女の提案(命令)に従った。

 でも、ツルベイの誘いにのった真の理由は何といっても峰光が僕の平凡で単調な日常を破壊するパワーを持ってそうだったから。更に言うと僕も他のクラスの男子同様、峰光の美少年系エキゾチックフェイスが気になっていたのだ。
「もし良かったら、部屋の掃除とかお客様の案内とか手伝おうか」
 僕とツルベイが早速、峰光に申し出ると
「ウェイシャンマ」
いつもクールな峰光が、梅干しでも丸飲みしたみたいに顔をしかめた。
「ウェイシャンマってどういう意味」
「何故って意味」
「一人で大変やろ。僕たち、暇やから」
「そうそう、その代わりにみっちゃんに英語とか中国語を教えてもらおうって話やから」
 ツルベイが調子良く合わせる。
「あ、有り難う。玲ちゃん、良太君」
「え、いいの」
「どうして? いいに決まってるでしょ。嬉しいよ」
「さっき、ちょっと辛そうな表情したから」
「嬉しくて照れてる時の顔なの」
「変な癖だね」
「まあね」
 僕たちは、そうして彼女の民泊を手伝い始めた。 殆どの場合三人一緒だったけど、たまに二人っきりになる時もあった。

 ある日ツルベイに急用が出来て、二人でお客さんがチェックアウトした部屋を掃除した事がある。片付けしながら僕は峰光からマレーシアのことをちょっと聞いてみた。

「生まれ育ったキャメロンハイランドはとてもいいとこよ」
「高原なんやね」
「そう、とっても涼しいの。高さが二千メートルあるからね」
「空気薄くないがん」
「薄いのかなあ。平気だったけど」
 遠くを見つめる彼女の黒曜石のような瞳に高原の緑の風景が今にも浮かんできそうだった。
「戻りたいがん? その高原に」
 僕の質問に峰光は少しはにかんで考え込む。
「友達には会いたいね。ネットでは連絡とってるけど、一緒に会って話したいよ」
「友達とはマレー語で、話すがんね」
 照れ臭くて、我ながら無意味な質問をする。
「違うよ。中国語」
「マレー語じゃないがん」
「中華学校だったから、回りは中華系の友達多かったんだ」
「へえ、家では何語なん」
「パパとは英語、ママとは日本語」
「だから三国語も話せるんかあ」
 尊敬な眼差しで同級生を見てしまった。
「そういうこと。良太君、英会話やりたかったいつでも教えるから」
「うん、頼むわ」
 会話が途切れると僕はツルベイがいるときより一生懸命働いた。でないと間が持たないからだ。峰光も何となくぎこちなく思えた。
 それは、思い返すと二ヶ月ほど前だったろうか。夏の盛りの頃で、湿っぽい北陸のベトつく暑さはクーラーを効かせても不快なくらい。峰光のティーシャツも汗で肌に、ぴったり張り付いていた。おかげで少女らしい仄かに丸みにある体の線が見える

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